[コメント] ファム・ファタール(2002/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
大使の妻としての人生は全てバスルームで観た夢であった、として物語りはある時点まで一気に「巻き戻される」。ミステリのどんでん返しとしてはハッキリ云ってお洒落じゃないし反則スレスレである。新しいというわけでも無い。(正しお得意の分割画面やスローモーションを演出効果というより”しおり”として利用したのは心憎いアイデアであった)
むしろ最期にこの「巻き戻し」があるが為に、それまでの展開、つまり冒頭からどんでん返し直前までの展開を、時系列に沿って、回想シーン無しで描かねばならなくなってしまい、その為今度は、それぞれのシーンを異なった人々の視点から描かねばならなくなってしまった、と映画を壊乱させてしまったように思う。
即ち冒頭のカンヌ事件を(女でも黒人ギャングでも女優でも無い)第三者の視点から、そこからバスルーム前後までを女の視点から、7年後とされるシーンを記者(バンデラス)の視点からそれぞれ描いている。この為やたらとチグハグな印象を受ける。観客が主人公の立場に立ってスリルとサスペンスを味わうというミステリ的興奮がこの映画にはないのだ。
”ある女がある事件をきっかけに別の女に入れ替わる”というアイデアは、アイリッシュ『死者との結婚』からの出典かと思うが、このアイデアが真に効果を持つのは、その後の出来事を”入れ替わった女の視点から描いた場合”に限る。
ファム・ファタールものは云うまでも無く、翻弄される男性の視点から女を謎的に描くジャンルである。
デ・パルマのミステリ好きは良く判るが、好きなものを寄せ集めたっていいものは生まれない。ミステリとはもっとデリケートなものだ。多すぎていちいちツッコミ入れる気もなくなる細部の破綻よりも何よりもこの映画は企画の段階で大間違いを犯しているのである。
ただバンデラスが作っているツギハギ写真は示唆に富んでいて殆ど唯一の美点と云える。「人生は変えられる」という教訓の語り口としては良い部類に入るのではないか。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。