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[コメント] 複製された男(2013/カナダ=スペイン)

珍しくエンドクレジットの背景映像から書き始めよう。これが、ずっとビル群の遠景を繋いでいくものなのだが、私には、そのほゞすべてが、まるで蜂の巣のように見えたのだ。
ゑぎ

 いや本当は、横転した車の窓ガラスと同じように、蜘蛛の巣と見紛う効果を狙ったのかも知れませんね。映画の舞台はトロントだと思うが、これはホンモノのトロントの風景なのだろうか。作り物のように感じられる。この作り物感は、本作全体を象徴しているようにも思う。

 では、設定や梗概には極力触れずに、目を引いた部分を書きます。まずは、本作でも閉所感の強調反復を指摘したくなる。特に、暗い廊下の場面が、冒頭から何度も出て来て、私なんかは、廊下の映画と云いたくなるぐらいだ。あるいは、アダム−ジェイク・ギレンホールが通勤途中に通る小さな高架下のトンネルみたいな道の反復もある(これは『メッセージ』で、エイミー・アダムスが歩く、大学構内の陸橋下なんかを想起させる)。

 本来、こちらを先に書いた方が良かったかも知れないが、全編に亘る、セピアというか脱色したようというか黄砂がかかったみたいというか、シーンによっては金属的というか、独特のルックで描かれている画面だ。ただし、唐突にホテルのフロント場面が挿入される部分だけは、色・画質が異なる(普通のルック)、というこの見せ方は(さらに劇伴も)、アクセントとなっていて面白かった。このシーンで、もう一人のギレンホール−アンソニーが登場する。

 また、アダム及びアンソニーいずれのアパートの屋内シーンでも、その見せ方は肌理細かく工夫が凝らされている。例えば、強烈なアップ挿入とバルコニーの外からの視点、アダムからその彼女メアリー−メラニー・ロランへのパンと、アンソニーの妻ヘレン−サラ・ガドンからアンソニーへのパンといった相似のカメラワーク。

 あと、アダムとアンソニーの関係について、私は何の予備知識も無く見たということもあって、邦題から、てっきりクローンなどのSFシチュエーションが描かれているのだろうと想像していたのだが、これが明示されない、理屈が説明されない、というのは良い点だろう。ただし、冒頭の秘密クラブみたいな描写にまつわるイメージや、封筒の使い方、ラストショットを含めた幻想的なショット挿入に関しては、なんか思わせぶり過ぎるし、中途半端な造型に感じた。イザベラ・ロッセリーニがワンシーンだけ担ぎ出されていることを考えても、多分にデヴィッド・リンチを意識した作品なのだと思うが、理屈のない不穏さを描く部分では、リンチに一日の長があるだろう。

(評価:★3)

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