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[コメント] アシスタント(2019/米)

これは抜群に面白い。私の感覚で端的に云うと、照明を楽しむ映画。画面の触感や人物に対する眼差し、その温かさの度合いは全然異なるのだが、三宅唱の映画の面白さと共通している、と云ったらいいか。
ゑぎ

 暗い中、建物の前に自動車。その長い固定ショット。一人の女性が建物から出てきて車に乗り込む。ライトアップした橋を渡る自動車。後部座席の女性はジュリア・ガーナーだ。こゝは濱口竜介の『PASSION』みたいと思う。何の説明もないので最初は分からなかったが、この冒頭は、主人公が毎朝(特別な日だけかも知れないが)、送迎車で早朝出勤している場面だと分かってくる。会社での位置づけは「アシスタント」にも関わらずだ(ある意味、特別な人物なのだ)。ちなみに、帰宅時は徒歩(と多分公共交通機関)であることが終盤で示されるが、同僚たちや他の部署の多くの社員も退社した後に、ボスから帰ってもいいと云われて帰宅する。

 画面造型でまず指摘すべきは、主人公−ガーナーの執務室の明度だ。一日中節電タイムか。いや、これは業界のリアルなのか(でも、他フロアの場面ではもう少し明るい照明の場面もある)。しかし、私は、ローキーは映画の特質(大げさに云えば映画にしかできないこと、そう、テレビドラマではできないこと)だと思っていて、基本的に好きな志向性だし、本作では、窓からの自然光や、小さな照明機器からのピンポイントのライティングを活用した魅力的な画面が溢れている。例えば、執務するガーナーを正面から撮ったバストショットでは、ほゞ画面左側からの採光。複合機設置場所は最も暗いけれど、電球色の小さな灯りがある等。

 あと、繋ぎのセンスもいい。オフィス内の真俯瞰ショット(主人公のミタメに近い)をアクセントとする端正なカッティングが全編に亘るが、例えば、ボスの子どもが突然オフィスに出現する場面の見せ方。机に手だけが見え、女の子が現れたかと思うと、机の上に乗る。これ面白い!また、この女の子の奇声が怖いのだ。あるいは、ガーナーが、別棟にある人事部を訪れ、マシュー・マクファディンと会話する場面が最もスリリングな部分だと云えるけれど(こゝも照明は暗い)、この会話シーンの後に、ビルの谷間に雪が降る仰角ショットを挿入する感覚。これって、終盤の路上を歩く場面では舗道が濡れていないことを勘案すると、雪降るショットはガーナーの心象風景かもと思えて来る。

 というワケで、テーマ性やその意義に言及されることが専らとなる映画だと思われるし、それはそれで良いことだと考えますが、作品としての質の部分においても抜きん出た仕上がりの、面白い作品であるとこを強調しておきたい。

#エレベータに乗りあわせたのはパトリック・ウィルソン。本人役ということか。

(評価:★4)

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