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[コメント] 陰陽師0(2024/日)

草原。丘陵。そのフォーカスを外した風景。山崎賢人とすぐ分かる人物の姿もボケボケ。足元には墓があり、土から手だけ出ていて人形を持っている。このプロローグは夢。これが何度も挿入される。
ゑぎ

 続く導入部は京の都の俯瞰。津田健次郎のナレーションで、陰陽師の組織(陰陽寮)の説明が入る(またこの声か、とも感じる)が、「こゝからは現代語で」と云って、役者の科白が標準語になるのは律儀なスクリプトだと思い苦笑する。

 本作はとてもミニマルな、必要最小限の登場人物と舞台設定。そういう点では、演劇的だが、シンプルで焦点が絞られているという良い面もある。例えば、女優は、ほゞ奈緒筒井真理子の2人だけで乗り切っている(役割があるという意味では)。村上天皇−板垣李光人の内裏や、徽子女王−奈緒の邸の場面で女官たちも映っているが、科白があっても、ほとんど顔も映さないという演出が選択されている。

 また、奈緒のいる御殿など建築物の美術装置がシンプルだけどとても綺麗。色遣いもはっきりしている。人物の服装も、序盤は青の山崎、赤の奈緒、緑の染谷将太と明確に切り分けられている(後半は染谷も青を着るが)。あるいは、金の龍、火の龍、水の龍といった龍の造型も、CGは安っぽいけれど綺麗。特に奈緒が金の龍に翻弄される所作の演出は面白い。笑った。でも画面は綺麗なのだ。

 しかし、山崎が殺人容疑で捕縛された後、染谷と騎馬で逃走する場面辺りから、怒涛の展開ではあるが、かなりのカオスになってしまう。一部の登場人物を除いて皆が意識下の世界を共有していたということなのか。園村健介のアクション演出も、衣裳がヒラヒラしていることもあり、スピード感をイマイチ創出できていないように思った。それに、安藤政信がもっと影のある深みのある造型かと思っていたが腰砕けだし、敵役たちも面白味のない描き方だ。染谷と奈緒の二人芝居の時間も長い。もっとも、こゝも御殿が花で埋まっていく処理は綺麗。

 あと、見る前は、若き晴明−山崎の多少の成長が描かれるプロットだろうと予想していたのだが、これは全く違っていた。本作の山崎は、もう完全に出来上がっているように見える。もう何ら成長する必要もなさそう(伸び代もなさそう)なのだ。結局、この観点で云うと、誰よりも強く賢い、大胆不敵な山崎のキャラ造型を楽しむ映画だろう。そういう意味で、皇族(先の天皇の孫)である染谷にぺこぺこする他の陰陽師たちに対して、常に染谷の上位に立った言動をする山崎が描かれる部分が面白かった。あるいは、染谷がそれを受容し喜んでいるという関係が面白かったと云うべきか。染谷と奈緒も、相変わらず良い役者だと思ったが、この2人と帝との関係を描く部分は釈然としない。それは、もっともっと切なく描くべきじゃないか、ということだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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