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[コメント] 辰巳(2023/日)

これは面白い!いきなりドラマの佳境に放り込まれた感覚になるオープニング。このアバンタイトルで藤原季節、続くタイトル開けで足立智充という売れっ子俳優2人がワンポイント投入されるという贅沢さにワクワクさせられる。
ゑぎ

 また、序盤すぐに登場するリュウジ役−倉本朋幸という役者(この人は初めて知った)のぶっ飛んだ狂気の体現も図抜けている。そして、主人公の辰巳−遠藤雄弥が、死体損壊のプロであるという設定で、喧嘩が強いのかどうかよく分からないが、常にクールかつスマート(でも、狂気を持った人でないと、こんなことはできない)という造型であるのがいいし、ヒロインのアオイ−森田想の、気が強く怖いもの知らずなキャラ造型も実にカッコいいのだ。辰巳が死体を遺棄する準備作業の際、口の中からのショットが繰り返されるのと、この作業に初めて立ち会ったアオイがほとんど怖がらないというのが素敵。

 画面造型については、夕景や屋内ローキー場面の光の扱い、確か3カットだけ挿入されるドローン撮影と思しき大俯瞰ショットの使い方なんかも鮮やかだが、私が強調しておきたいのは、会話シーンを、かっちりかっちり切り返しで繋いで、的確に視線を演出するところだ。その際、無言ショットの使い方も上手い。アオイが「ここまで送ったんなら家まで送れよ」みたいな科白を云う場面の無言の切り返し演出が、この映画の一番のターニングポイント(それはプロット展開というよりは、辰巳の心もちの変化のポイント)だと私は思う。それと、アオイと姉のキョウコ−龜田七海が、辰巳の部屋を訪ねて、アオイのことを頼む場面では、180度のカメラ位置転換(切り返し)が行われている。

 あと、他の脇役陣−辰巳の兄貴分の佐藤五郎、辰巳が頼る後藤−後藤剛範、キョウコの夫(アオイの義兄)−変な髭の渡部龍平(『無情の世界』のイミテーションヤクザ!)らもみんないいと思う。特に、佐藤五郎の優しすぎるとも云えるヤクザの造型は特筆すべきだろう。彼が本作のハードボイルド性を下支えしていると云えると思う。難をあげるとするなら、キョウコ役の龜田七海が普通に綺麗過ぎるのと(私は一瞬、吉岡里帆かと思った)、この役は、もう少し辰巳との関係を丁寧に描くべきではないかと感じた点だ。

 あるいは、終盤のクライマックス後のエピローグが少々長いのも気になったのだが、ただし、2つの事柄の理由(抗争の理由及び辰巳の動機)について問いが立てられ、いずれにも明確な答えを出さずに終わる(抗争の理由は金、というのは、私には漠としすぎていると感じる)のはいい。全ての理由や理屈を明確にする必要なんて、さらさらないと私は思う。さらに、ラストが冒頭と同じような波止場を背景とするシーンであり、ラストショットが流麗なクレーン撮影(もしかしてドローン?)であることも満足感を高めている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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