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[コメント] 季節のはざまで(1992/仏=独=スイス)

本作も日本語のデジャヴではないが、既視感を描いた作品だ。ドッペルゲンガーと云った方が近いかも知れない。最初はスピリチュアルな(霊的な)描写にもなるのかと推測したが、それは全く無かった。
ゑぎ

 開巻はバスの中の男−主人公のサミー・フレイのショット。モノローグが入り、ある女性−ガブリエルに呼ばれたと云う。こゝから、ほゞ全編がフレイを映したショット、もしくはフレイの主観的な画面で構成されている。

 フレイは、老いたガブリエル−アンドレア・フェレオルから、幼少期に過ごした彼のお祖母さんのホテルが近く取り壊しになると聞き、今はもう廃業しているそのホテルを訪れる。こゝからラストまで、主人公がノスタルジックに子どもの頃の思い出に浸る、回想の挿話が綴られるだけなのだが、実に愉快な、目に心地よい美しい画面が連続し、ずっとニンマリしながら見ることができる。

 まずは、主人公の子供時代を演じる子役が可愛い。常に口角を上げて見つめる表情。この子の廊下をドタドタ走るさま、特に、滑って転ぶショットが存在していることは、本作全体でも大きなチャームポイントだろう。また、祖父母とメイドと執事と共に、季節ごとに(ホテルの繁閑に合わせて)暮らす部屋を変えているようで、その際、皆がトランクや絵画の額などを持ってホテル内を移動する。この屋内の『旅芸人の記録』みたいな描写が何度も挿入されるのも、とてもいいリズムを作っている。例えばサマーシーズンに備えて屋根裏部屋へ移動する、ホテルの閑散期は、一番上等の部屋で暮らすと云う。

 次に、他の特記すべき人物をあげよう。オフで艶めかしい声の聞こえるエレベーターから降りて来て登場するのはセクシーな有閑夫人−アリエル・ドンバール。若きガブリエル−フェレオルは売店担当の従業員だ。奇術師のマリーニ教授はウーリー・ロメルがやっている。広間での生演奏は、ピアノ−ディーター・メイヤーと、歌手及びドラム担当−イングリット・カーフェンのコンビ。カーフェンは、基本ドイツ語の歌詞で唄うが、様々な国の言語をワンフレーズ挿入したりする。実は、本作のカーフェンの唄は上手いと思った(って偏見のある云い方だが)。ラスト近く、彼女が主人公に子守歌を唄って聞かせる階段のシーンがあることで、カーフェンの特別感が増している。あと、ビッグネームでは、全くの客演という感じで、ジェラルディン・チャップリンがアナーキストを演じている。

 そして、全編を通じ、主人公のお祖母さん−マリア・マダレーナ・フェリーニが見事な存在感で、全てを(常連客をも)仕切っている見せ方がいい。また、お祖母さんに全てを任せている風のお祖父さん−モーリス・ガレルだって良いアクセントになっていて、お祖父さんが若いときに大女優サラ・ベルナール−マリサ・パレデスに気に入られていたという挿話(回想中回想)が全編で一番良いシーケンスかもしれない。この挿話の最後のショットは鳥肌モノの素晴らしさだ。あとは、マリーニ教授の出し物「サハラ砂漠の夜」の中で、催眠術にかかって服を脱ぎ始める人たちの場面も捨てがたい。こゝの描写も極めて品が良く、気品と猥雑さとのバランスの良さは、全編に亘って云えることだ。

#お祖母さん役のマダレーナ・フェリーニはフェデリコの妹。お祖父さん役のモーリス・ガレルはフィリップの父、ルイの祖父。

(評価:★4)

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