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[コメント] 麦秋(1951/日)

私が好きなのは専務。これもまた「失われた日本」。
ミドリ公園

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







オフィスで、専務(佐野周二)とアヤ(淡島千景)の会話。

 (女が女のブロマイドを集めるなんて変態……という前段があったあと)

 専務「寿司、なに好きだい?」

 アヤ「まぁトロね」

 専務「ハマグリは?」

 アヤ「好きよ」

 専務「海苔巻は?」

 アヤ「……キライ!」

 専務「君も変態だよ、ハッハッハッ」

最初観たときは、この専務が好きじゃなかった。でも、もう一度観たら好きになりました。

彼の立場に立ってみると、紀子(原節子)に紹介したのは自分の大学の先輩。それを事前の相談なしに断られたのに「大変古風なアプレ・ゲール」と返し、最後は「まあいいや」で済ましてしまう。そういうのって大人だな、と思う。まあ映画だと言われればそれまでですが……。

でも、その前提で見直すと、上の会話もセクハラというより「大人同士の会話」って感じがしませんか? アヤは「海苔巻」の意味するところが判ったからこそプイと横を向くわけですが、今の女の子にこんな冗談を言ってもたぶん通じません。通じないからといって露骨なことを言えばそれこそセクハラですし、それはこの時代でも明らかに「無粋」です。

小津安二郎の映画はしばしば「失われた日本の……」と評されますが、「失われたもの」は、たんに風景とか家族のあり方だけではなく、これもまた「失われたもの」です。

(評価:★5)

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